「総合商社は激務だけど、やりがいは半端ないよ!」
OB訪問でそう言われ、私の心は高揚と同時に、深い不安に包まれました。20代後半、かつて総合商社への就職を夢見ていた私も、その言葉の裏に隠された真実を知りたいと強く願っていました。本当に寝る時間もないほどの激務なのか、体育会系のノリについていけるのか、そして「人間力が付加価値」とは一体どういう意味なのか…。「このまま漠然としたイメージだけで進んで、後悔したくない」。そんな心の声が、常に私の中で響いていました。
見えない「激務」と「人間力」の壁|就活生が抱える不安の正体
総合商社は、多くの就活生にとって憧れの的です。しかし、その華やかなイメージの裏には、OB訪問で語られる「激務」という現実が横たわっています。具体的な仕事内容や日々の生活が見えにくい中で、就活生は「本当に自分に務まるのか」という漠然とした不安を抱えがちです。一般的な解決策としては、OB訪問を重ねて情報を集めることが挙げられますが、多くの場合、得られるのは抽象的な「やりがい」や「成長」といった言葉ばかり。これでは、本当の自分に合うかどうかを見極めるのは困難です。
「友人のケンタも、最初はそんな感じだったよ」と、総合商社で働く友人のケンタは言います。「俺も入社前は漠然とした憧れだけだった。でも、実際に飛び込んでみたら、想像以上にタフな世界だったんだ」。ケンタによると、激務とは単に労働時間が長いだけでなく、海外との時差を乗り越えての会議、予期せぬトラブル対応、そして何より、巨大なプロジェクトを動かすプレッシャーの連続だと言います。若手の離職率が取り沙汰される背景には、この「イメージと現実のギャップ」が大きく影響しているのかもしれません。
私の失敗体験と転機|「人間力」という言葉の呪縛
私もケンタと同じように、OB訪問では「人間力が大事」という言葉をよく耳にしました。しかし、当時の私はその意味を深く理解していませんでした。「コミュニケーション能力が高いことかな?」「飲み会で盛り上げること?」そんな表面的な解釈に終始し、「自分も頑張れば身につくはず」と安易に考えていたのです。
しかし、商社で働くケンタの話を聞くにつれ、私の不安は募っていきました。彼は、異国の文化や価値観を持つ人々と膝を突き合わせ、時には泥臭い交渉を重ねて信頼関係を築き、最終的にビジネスを成立させることこそが「人間力」だと語っていました。これは、私が想像していたよりもはるかに深く、タフな能力です。「もし、この『人間力』が自分に足りなかったら…」「このままでは、ただ消耗して終わってしまうのではないか」。そんな焦燥感と後悔にも似た感情が、私の心を支配し始めました。
このままではいけない。そう感じた私は、キャリアアドバイザーでもあるFPの友人、ユミに相談しました。
専門家の見解:商社で求められる「真の人間力」と激務の乗り越え方
ユミは私の話を聞き、「商社が求める『人間力』は、一朝一夕で身につくものではないわ。でも、それは特別な才能じゃなくて、意欲と努力で伸ばせるものよ」と優しく教えてくれました。さらに、ケンタも加わり、商社のリアルな働き方について詳しく語ってくれました。
「ねえ、商社で言う『人間力』って、単に愛想がいいとか、話が上手いってことじゃないんだ」とケンタは切り出しました。「それは、多様なバックグラウンドを持つ人々の間に立って、利害を調整し、信頼を勝ち取り、最終的に『この人となら一緒に仕事をしたい』と思わせる力なんだ。それは、語学力や専門知識だけじゃなくて、相手の文化を理解しようとする姿勢や、困難な状況でも諦めない粘り強さ、そして何より、相手のために何ができるかを考え抜く『Grit(やり抜く力)』が求められるんだ」。
激務についても、ケンタはこう語ります。「確かに寝る時間が削られることもある。でもそれは、単に仕事量が多いだけじゃなくて、世界中のパートナーと時差を乗り越えてコミュニケーションを取ったり、一つのプロジェクトを成功させるために、とことん向き合う時間の結果なんだ。自分の時間管理能力だけじゃなく、成果への執着や責任感が問われるんだよ」。
FPのユミは、キャリアの観点からこう付け加えました。「若手の離職率が高いと言われるのは、商社というフィールドが合わない人が一定数いるから。商社は良くも悪くも『個』の力が試される場所。自分の価値観や、どんな働き方をしたいのかが明確じゃないと、ミスマッチが起きやすいの。だからこそ、入社前に自分と深く向き合うことが何よりも大切よ」。
後悔しないキャリア選択のための3つの視点
ケンタとユミの話を聞いて、私は漠然とした不安から解放され、具体的な視点を得ることができました。総合商社への就職を検討しているあなたも、ぜひ以下の3つの視点から自分を見つめ直してみてください。
1. 「なぜ商社なのか」を深掘りする
- 単なる憧れだけでなく、商社で何を成し遂げたいのか、どんな課題を解決したいのかを具体的に言語化しましょう。それが、激務を乗り越える原動力になります。
2. 「激務」の具体像を想像する
- 労働時間だけでなく、仕事の質やプレッシャー、海外出張の頻度など、具体的な「激務」の内容を想像し、自分のワークライフバランスの優先順位と照らし合わせてみましょう。
3. 「人間力」を自分なりに定義する
- 商社で求められる「人間力」とは何かを自分なりに解釈し、それが自分の伸ばしたい能力やキャリアプランと合致するかを考えてみてください。漠然とした言葉に惑わされないことが重要です。
FAQ:就活生が気になる商社の疑問
- Q1: 体育会系のノリは必須ですか?
- A1: 「体育会系」と一括りにはできませんが、チームで目標達成を目指す粘り強さや、上下関係を重んじる文化は一定数存在します。しかし、それは単なる精神論ではなく、巨大な組織を動かす上で必要な協調性や規律と捉えるべきでしょう。ケンタによると、「多様なタイプがいるから、無理に合わせる必要はないけど、チームワークを重んじる姿勢は大事だよ」とのことです。
- Q2: 若手の離職率は本当に高いのでしょうか?
- A2: 公的なデータでは、業界全体の離職率は他の業界と比べて特別高いわけではありませんが、一部で「若手の離職が多い」という声があるのは事実です。これは、入社前のイメージと現実のギャップ、そして個人のキャリア観とのミスマッチが主な原因と考えられます。ユミは「ミスマッチを防ぐためには、徹底した自己分析と、OB訪問で具体的な仕事内容や働き方について深く質問することが重要よ」とアドバイスしています。
未来への一歩:あなたの「航海」の舵を取るために
総合商社は、世界を舞台に大きなビジネスを動かす、まさに「荒波の海を航海する巨大な豪華客船」のような存在です。その船に乗ることは素晴らしい経験となるでしょう。しかし、その航海が自分にとって本当に望むものなのか、荒波を乗り越える覚悟があるのかを、入社前に深く考える必要があります。
「激務」や「人間力」という言葉の裏にある真実を見極め、自分自身の価値観と向き合うことで、あなたは後悔のないキャリア選択ができるはずです。OB訪問では、表面的な話だけでなく、相手の失敗談や苦労話、そしてそれをどう乗り越えたのかを具体的に聞いてみてください。そして、あなたの「なぜ商社なのか」を明確にし、自信を持って就職活動に臨んでください。あなたの「航海」が、実り多きものとなることを心から願っています。
この記事を書いた人
キャリア探求ライター | 20代後半 | 就職活動で総合商社を志望し、リアルな情報収集と自己分析を通じてキャリア観を深めた経験を持つ。多様な働き方やキャリア形成について、読者に寄り添う記事を執筆している。
