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ハウスメーカーICの「きつい」現実と本物のやりがい

「インテリアコーディネーターって、素敵な仕事だよね」

かつて、私もそう信じていました。30代半ばの私にとって、新築の家を彩る仕事は夢そのもの。特にハウスメーカー勤務のインテリアコーディネーターは、多くの家族の夢を形にする、まさに「魔法使い」のように見えていました。しかし、ネットで目にする「ブラック」「きつい」という評判が、私の心を深くえぐったのです。

「お客様の要望と予算の板挟み」「膨大な事務作業」「度重なるプラン変更」。もし、憧れの仕事に就けたとしても、理想と現実のギャップに打ちのめされ、疲弊しきってしまうのではないか――。そんな不安が、私の胸を締め付けました。まるで、目の前に広がる輝かしい舞台への一歩を踏み出そうとした途端、足元に深い沼が広がっているのを見たような絶望感です。

「このままじゃ、憧れだけで終わってしまう…」

そんな時、私の心の声に応えるかのように、大学時代からの親友で、かつて大手ハウスメーカーでインテリアコーディネーターとして活躍していた田中美咲(たなかみさき)の顔が浮かびました。彼女なら、きっとリアルな話を聞かせてくれるはず。

「ねえ、美咲。ハウスメーカーのICって、本当にきついって聞くけど、実際どうなの?」

カフェで再会した美咲は、私の不安そうな顔を見て、優しく微笑みました。そして、彼女が語ってくれた現実は、私の想像をはるかに超えるものでした。

理想と現実の狭間、ICが直面する「3つの壁」

美咲の話は、私がネットで見た「きつさ」の具体的な内実を鮮やかに描き出しました。

1. お客様の「夢」と「予算」の綱渡り

「一番きついのは、お客様の『これぞ夢の家!』っていう情熱と、現実的な予算の折り合いをつけることかな」と美咲は言いました。「例えばね、最新の輸入クロスを使いたいって言われても、予算オーバーだと正直に伝えなきゃいけない。でも、そこでただ『無理です』じゃ、お客様の夢を壊しちゃうでしょ?

『ああ、どうすればお客様の期待に応えつつ、会社の利益も守れるんだろう…』って、いつも頭を抱えていたよ。まるで、お客様の笑顔と会社の数字という二つの大きな波の間で、必死にバランスを取るサーファーみたいだったね。時には、お客様の落胆した顔を見るのがつらくて、『私の提案力が足りないのかも…』って、夜中に一人で悩んだこともあったな」

2. 華やかなイメージの裏に隠された「膨大な事務作業」

「インテリアコーディネーターって、デザイン画を描いたり、ショールームで素敵なものを選んだりするイメージが強いけど、実際は事務作業が本当に多いんだよ」と美咲は苦笑いしました。

「打ち合わせ議事録、見積もり作成、発注業務、納期の確認、変更箇所の図面修正…これらが毎日山のように押し寄せる。お客様との打ち合わせが終わって、ホッと一息つく間もなく、デスクに戻れば事務作業の山。休日出勤して、ひたすら伝票を処理したこともあったね。正直、『私、事務員だったっけ?』って思ったことも一度や二度じゃない。創造的な仕事だと思って飛び込んだのに、数字と文字に追われる日々は、本当に消耗したよ」

3. ゴールが見えない「度重なるプラン変更」

そして、美咲が最も「きつい」と語ったのが、プラン変更の嵐でした。

「お客様が一度決めたプランでも、やっぱり家族会議で意見が変わったり、ショールームで別のものを見て気持ちが変わったりすることは日常茶飯事。それはお客様の自由だし、当然のこと。でも、そのたびに、私たちが対応しなきゃいけない業務は膨大に増えるんだ」

美咲は、あるお客様の例を挙げました。キッチンの壁紙を何度も変更し、最終的に最初の案に戻ったという話です。その間、美咲は何度も見積もりを作り直し、発注先に連絡し、図面を修正しました。

「『え、また変更?』って、正直、心が折れそうになる瞬間は何度もあったよ。特に、もう着工してるのに変更を依頼された時は、現場との調整も大変で、板挟み状態。もう、ゴールがどこにあるのか見えなくなって、『この仕事、私には向いてないんじゃないか…』って、絶望的な気持ちになったこともあったな」

「きつい」の先に広がる、本物のやりがいと覚悟

美咲のリアルな話を聞いて、私は正直、一度はICへの道を諦めかけました。しかし、美咲は最後に、力強くこう語ってくれたのです。

「でもね、それでも、私はこの仕事に心底やりがいを感じていたんだ。お客様が、完成した家で最高の笑顔を見せてくれた時、『田中さんのおかげで、夢が叶いました!』って言ってくれた時、今までの苦労が全部吹き飛ぶんだよ。あの感動は、何物にも代えがたい。インテリアコーディネーターは、単に素敵な空間を作るだけじゃない。家族の思い出や、これからの人生を彩る『物語』を紡ぐ仕事なんだ」

美咲は、この「きつさ」を乗り越えるためには、「お客様の潜在的なニーズを引き出す傾聴力」「複数のタスクを効率よくこなす管理能力」「そして何より、お客様の『ありがとう』を原動力に変える強い心」が必要だと教えてくれました。

「きつい」という現実は確かに存在する。しかし、その先に待っているのは、お客様の人生を豊かにする、かけがえのない喜びと達成感。美咲の言葉は、私の心を再び奮い立たせてくれました。これは、ただの「きつい」仕事ではない。覚悟を持って臨めば、最高の「やりがい」と「感動」を与えてくれる、尊い仕事なのだと。

インテリアコーディネーターとして輝くための3つの視点

美咲の話から、ハウスメーカーのインテリアコーディネーターとして活躍するために重要な視点が見えてきました。

1. 「聞く力」を磨き、お客様の「本音」を引き出す: 表面的な要望だけでなく、なぜその要望があるのか、どんな暮らしをしたいのか、深く掘り下げてヒアリングするスキルが不可欠です。お客様自身も気づいていない「潜在的なニーズ」を言語化することで、後々のプラン変更を減らし、より満足度の高い提案が可能になります。

2. タスク管理と効率化のスキルを習得する: 膨大な事務作業やプラン変更に対応するためには、優れたタスク管理能力が求められます。優先順位付け、時間管理、デジタルツールの活用など、効率よく業務を進めるためのスキルを積極的に学ぶことが重要です。

3. 「きつさ」を「やりがい」に変える心の強さを持つ: 理想と現実のギャップ、お客様と会社の板挟みなど、精神的な負担は避けられません。しかし、それを「お客様の笑顔のため」という強い動機付けに変えることで、困難を乗り越える原動力にできます。時には、同僚や先輩に相談し、一人で抱え込まないことも大切です。

ハウスメーカーのインテリアコーディネーターは、決して楽な道ではありません。しかし、その「きつさ」の先には、お客様の人生に深く関わり、最高の感動を分かち合える、他に代えがたい喜びが待っています。この仕事に憧れるあなたが、現実を理解し、その上で挑戦する覚悟を持てるよう、この記事が少しでも力になれば幸いです。

この記事を書いた人

山本 紗希(やまもと さき)| 30代 | インテリア関連webライター

大学時代にインテリアデザインを専攻。ハウスメーカーのインテリアコーディネーターに憧れるも、現実の厳しさを知り一度は別の道へ。現在はフリーランスで、多くの人が理想の暮らしを叶えるための情報発信を行っている。夢を追う人々の背中を押す記事執筆をライフワークとしている。